2026年の夏は三重大学大学院の立花義裕教授(気候ダイナミクス研究室)が様々なメディアに登場、「もう待てない」と気候変動を大変危機感をもって語っていました。
立花教授の危機感は、大きく3つの理由から生じています。1つ目は、温暖化が「理屈の話」から「体で感じる災害」に変わったこと。2つ目は、地球の反対側の異変が、風や海を通じて日本の猛暑や豪雨とつながっていること。3つ目は、日本は世界でも異常気象の影響を受けやすい国なのに、対策を後押しする世論が弱いことです。2026年はこの3つが、同じ年のうちに目に見える形で重なり、その背景には「ゴジラ・エルニーニョ」がいました。教授出演の番組を追いながらその内容を整理してみました。
・海面温度の予測が目盛りを突き抜けるエルニーニョ(ギズモード・ジャパン)

スーパーエルニーニョ確定? 100年に一度のレベルに発達する可能性 | ギズモード・ジャパン
序章 ゴジラ・エルニーニョ
第1章 しくみの土台:海と大気という「巨大な湯船」
第2章 2026年の異変
2-1 6月:ヨーロッパを襲った記録的熱波
2-2 7月:日本で史上初の「酷暑日5日連続」
2-3 8月:異例の進路の台風15号と「千葉豪雨」
2-4 夏から秋:ゴジラの影響は台風の数にも、そして来年へ
2-5 9月:北大西洋の「青い穴」とAMOC
第3章 バラバラの出来事を結ぶ一本の糸:偏西風
第4章 なぜ「差し迫っている」のか
おわりに
■温暖化とCO2との関係
序章 ゴジラ・エルニーニョ
2026年、欧米のメディアは、ある気象現象を「ゴジラ・エルニーニョ」と呼び始めました。エルニーニョとは、南米ペルー沖から赤道の太平洋にかけて、海の水温が平年より高くなる現象です。数年に一度起き、世界中の天気に影響します。とくに規模の大きいものは「スーパーエルニーニョ」と呼ばれますが、今年はそれを通り越す勢いだとして、怪獣の名がついたのです。
数字を見ると、その呼び名が大げさではないことが分かります。気象庁によれば、7月の監視海域の海面水温は平年より+2.5℃で、1997年と並んで7月として過去最大でした。NOAAの解析では、8月の世界の平均気温は20世紀平均より1.32℃高く、観測史上最も暑い8月になり、海面水温は全月を通じて過去最高でした。
・2026年8月22日の海面水温が平年よりどれだけ高いか低いかを示した図

2026年8月、世界の海面水温が観測史上最高を記録
では、この怪物は自然に生まれたのでしょうか。8月27日に科学誌『サイエンス』に載った研究が、1つの答えを出しました。ガラパゴス諸島のサンゴには、海水温が年輪のように記録されています。過去1000年分のその記録によると、いまのエルニーニョの揺れ幅は産業革命前より36.5%大きく、自然要因だけのモデルでは再現できませんでした。研究チームは、化石燃料の燃焼による温暖化以外では説明できない規模だと指摘しています。ゴジラを育てたのは、私たち人間が出す二酸化炭素だった、というわけです。
第1章 しくみの土台:海と大気という「巨大な湯船」
温暖化の核心にあるのは、二酸化炭素などが熱を逃がしにくくするメカニズム(文末の「■温暖化とCO2との関係」参照)です。この熱の大半は海に溜まります。海は温まりにくく冷めにくい、巨大な湯たんぽのようなものです。
立花教授らの研究では、日本の「夏」は1982年から2023年の42年間で約21日長くなり、1982年の92日が2023年には121日になりました。主な要因は海面水温の上昇です。教授の説明では、以前は大陸から来た暖かい空気が日本周辺の海で冷やされていましたが、海が温まったためその冷却が効かなくなり、夏の始まりが早まっています。湯船の湯が冷めなくなると、浴室全体がいつまでも蒸し暑いのと同じです。この「溜まった熱」が、次の章の出来事の舞台装置になります。
第2章 2026年の異変
2-1 6月:ヨーロッパを襲った記録的熱波
2026年の6月21日から28日頃。デンマーク、ポーランド、ドイツ、チェコなどヨーロッパの広い範囲で、平均気温が平年を約10℃上回り、40℃を超えた地点が出現しました。どうしてこの現象が起きたのでしょうか。偏西風が大きく北へ蛇行し、ヨーロッパ付近に背の高い高気圧が居座ったためです。高気圧の西側ではアフリカからの熱風が入り、中心付近では上空の暖かい空気が地表近くまで降りてきました。この結果、パリでは6月の最高記録となる40.9℃を観測しました。イギリスも暫定値で37.3℃を記録し、6月の最高気温を3日連続で更新しました。
・6月21〜28日の平均気温が平年より何℃高かったかを示す分布図

2026年6月下旬のヨーロッパの記録的な高温とその特徴について | 気象庁
熱波は火災も引き起こしました。7月にはスペイン北東部で山火事が広がり、千人を超える住民が避難しました。その後の報道では、スペインでの避難者は63,000人にのぼったとされています。欧州の西部は、6〜7月として観測史上最も暑い時期を経験しました。
2-2 7月:日本で史上初の「酷暑日5日連続」
一方日本では、7月21日から25日に、東海地方を中心とする岐阜県・三重県・静岡県・愛知県などで、「酷暑日」が頻発しました。25日には岐阜県美濃市で40.8℃、多治見市で40.7℃、三重県桑名市で40.6℃など、6地点が40℃以上になり、40℃以上の地点が5日連続で出る過去最長の記録となりました。23日には浜松市佐久間で41.1℃も観測されました。なぜ酷暑日が頻発したのでしょうか。気象庁の分析では、偏西風が平年より北へ蛇行し、西日本が背の高い暖かい高気圧に覆われて、晴天による強い日射に加え、下降する空気が圧縮されて温度が上がる「断熱昇温」が効いたため、としています。lこれはたとえば自転車の空気入れで空気を押すと筒が熱くなります。これと同じで、高気圧の中で空気が降りてくると押し縮められて熱を持つためなのです。
・最高気温40度以上となる「酷暑日

(史上初の「酷暑日5日連続」 この暑さいつまで? 8月上旬も40度前後の危険な暑さに)
注目すべきは、地球温暖化の影響を調べた速報的な解析です。7月中旬から8月上旬の西日本の高温は、地球温暖化がなかったと仮定するとほぼ発生し得ない、という結果が出ました。温暖化は「6の目が出やすいイカサマサイコロ」のように、極端な暑さが出る確率を大きく上げているのです。
2-3 8月:異例の進路の台風15号と「千葉豪雨」
そして8月は台風15号が逆走したり、千葉豪雨で甚大な被害が出たりしました。2026年の夏はいつもの夏と違う状況となったのです。千葉市では24時間降水量367mm、1時間降水量115mmでした。千葉市と佐倉市は2日間で8月の平年降水量の約3倍に達し、レベル5の大雨特別警報が19市3町に出ました。死者・行方不明者は計14名、住家被害は4,635棟でした。避難指示は一時40万人を超えました。
なぜ起きたのかは、次の4段階で説明できます。
第1段階:日本の東の海上に強い高気圧が居座り、南の海上には「モンスーンジャイア」と呼ばれる巨大な低気圧の渦ができました。気象庁は、台風15号はこの2つの間を西へ進み、日本の東から茨城県に初めて上陸するという過去に例のない経路をとったと説明しています。台風は自力ではほとんど動けず、川に浮かぶ笹舟のように周りの風の流れに運ばれます。
第2段階:台風の反時計回りの風が、房総半島に東から大量の暖かく湿った空気を送り込みました。
第3段階:上空には寒冷渦による強い寒気が入り、さらに関東内陸では昼間の雨で冷たい空気の層ができました。暖湿気がその冷気層に乗り上げる場所でシアーライン(局地的な前線)が形成され、積乱雲が次々と生まれました。ベルトコンベアで次々と部品が運ばれ、同じ場所で積み上がっていくイメージです。
第4段階:積乱雲の上端が15kmを超えるほど発達していました。数値予報モデルは千葉県の線状降水帯を予測できませんでした。
・モンスーンジャイアから始まった

(千葉豪雨の原因は…「モンスーンジャイア」と高気圧からの暖気、寒冷渦の冷気が衝突し積乱雲が次々発生)
2-4 夏から秋:ゴジラの影響は台風の数にも、そして来年へ
エルニーニョの影響は、台風の発生数にも表れています。2026年夏の台風発生数は17個(10月6日までの計算)で、平年の11.0個を大きく上回り、統計開始以来3位タイの多さでした。気象庁によると、エルニーニョが起きている夏は、台風の卵になる風の波(偏東風波動)が強まる傾向があり、今年の多さには顕著なエルニーニョが影響した可能性があります。
世界の海もさらに熱を帯びました。欧州の機関のデータでは、8月22日に極域を除く世界の海面水温が21.1℃となり、日別の記録を更新しました。
そして本当の山場はこれからだと見られています。エルニーニョの熱が大気に伝わるには約3か月の遅れがあるため、11〜12月にピークを迎えるゴジラの影響は2027年に最も強く出ると予想されています。お風呂のスイッチを入れても、お湯が熱くなるのは少し後、というのと同じです。英国気象庁がWMOのためにまとめた報告書は、2026〜2030年に史上最も暑い年が出る確率を86%としています。
2-5 9月:北大西洋の「青い穴」とAMOC
9月27日のテレビ朝日「グッド!モーニング」では、立花教授がAMOC(大西洋南北熱塩循環)について解説しました。世界が温暖化する中で、グリーンランド、アイスランド、イギリス付近だけは1℃以上気温が下がっている場所があり、「温暖化の穴(Warming Hole)」と呼ばれます。
・、「温暖化の穴(Warming Hole)」

北大西洋に謎の「冷たい斑点」、将来の不吉な兆候か
教授によると、これも温暖化の結果である可能性があります。AMOCは、暖かい海水を北へ運び、北大西洋で冷やされて重くなった水が深く沈んで南へ戻る、巨大な海流の循環です。グリーンランドの氷が溶けて大量の真水が流れ込むと塩分が薄まり、水が沈みにくくなって循環が弱まる恐れがあります。重い塩水が沈む力が「海のポンプ」の動力なので、真水が混ざるとポンプが弱るわけです。
日本への影響も指摘されています。教授は、温度差が大きくなると偏西風の蛇行が激しくなる可能性があり、そうなると日本付近でも暑い空気や冷たい空気が長期間とどまり、猛暑・豪雨・大雪が増える恐れがあると説明しています。
第3章 バラバラの出来事を結ぶ一本の糸:偏西風
欧州の熱波、日本の酷暑日、台風15号の迷走と千葉豪雨は、別々の事件に見えます。しかし気象庁の分析では、どれも偏西風の蛇行が出発点にありました。偏西風は地球を西から東へ吹く大きな風の帯で、ゆるやかな川の流れのようなものです。流れの途中に障害物ができたり、揺さぶられたりすると、川は大きくくねります。蛇行の北側の「張り出し」には暖かい高気圧が、南側の「へこみ」には寒冷渦が生まれます。
・偏西風の異変

(温暖化は日本狙い撃ち? 猛暑・豪雨が普通の時代、「四季から二季へ」)
教授は2010年の日本の猛暑を、偏西風が高気圧の発生で蛇行し、ヨーロッパの熱い空気が日本まで運ばれたことが原因だと発見しました。2026年の出来事は、その考え方がいっそう現実味を帯びたものと言えます。この蛇行を強める背景には、熱を溜め込んだ海があります。エルニーニョで熱帯の海が温まり、AMOCの変化で大西洋の熱の運び方が乱れ、日本周辺の海面水温も上がっています。教授が「いつどこで起きてもおかしくない」と考える理由は、舞台装置の全体が、すでに熱くなっているからです。
第4章 なぜ「差し迫っている」のか
ここまでを整理すると、教授が危機感を強める理由は3つあります。
1つ目は、猶予の短さです。2027年がさらに暑くなる見通しがあり、温暖化は一度悪化すると数年単位では戻りません。教授は、夏の気温は40℃超えが当たり前になり、生活を大きく変えないと「やっていられない」時代がもう間もなく来ると述べています。具体策として、朝9時出勤を7時に前倒しする、断熱性能を上げるなどを挙げています。
2つ目は、日本の世論と対策のギャップです。教授が紹介する世界調査では、「気候変動対策は生活の質を向上させる」と答えた人がフランス81%、イタリア81%、インド75%、カナダ73%、アメリカ67%、中国65%に対し、日本は17%だけでした。「対策は生活の質を脅かす」と答えた人は日本で60%、世界平均で27%でした。教授は、日本の対策は「我慢を強いるもの」になりがちなので、「楽しく得をする」仕掛けで世論を変えるべきだと提案しています。
3つ目は、日本が最も影響を受ける国だという点です。教授は、「日本だけ頑張っても」という声に対し、責任を他国になすりつけている場合ではなく、世界に先んじて行動を変えるトップランナーになるべきだと語っています。
おわりに
2026年の夏は、教授が理論として語ってきたことが、国境を越えた一連の災害として現れた年でした。6月の欧州の熱波、7月の5日連続の酷暑日、8月の千葉豪雨、そして世界の海の記録的な高温は、どれも「熱を溜めた海と、蛇行する風」という同じ仕組みの上にあります。教授が言う「待ったなし」とは、未来の予言ではなく、すでに始まっている現実の説明だと理解できます。
■温暖化とCO2との関係
地球は、大気という「ふとん」に包まれ保温されています。太陽の光で温まった地面は、熱を赤外線として宇宙へ逃がそうとします。このとき、大気中の水蒸気や二酸化炭素(CO₂)などの「温室効果ガス」が赤外線をキャッチし、その一部を地面に投げ返します。このおかげで、地球の平均気温は約14℃に保たれています。もし大気がなければ、熱はそのまま宇宙へ逃げてしまい、平均気温はマイナス19℃になると言われています。
・温室効果のメカニズム

(<a href="https://eic.or.jp/library/ecolife/knowledge/earth02a.html">地球温暖化のメカニズム(グローバルな環境問題)</a>)
問題は、人間が石炭や石油などの化石燃料を大量に燃やして、CO₂を急速に増やしていることです。CO₂が増えると、熱をキャッチするセンサーが増えるようなもので、宇宙に抜ける熱が減り、地面に戻る熱が増えます。春用のふとんの上に毛布を何枚も重ねたように、地表の温度が上がっていきます。これが地球温暖化です。
・二酸化炭素濃度と気温の推移(1800年~現在)

(<a href="https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00105/">温暖化防止を阻む、「現状認識」と「政策」の壁</a>)
さらに、気温が上がると空気中の水蒸気も増えます。水蒸気も強い温室効果ガスなので、温暖化がいっそう強まります。
他方、森や海はCO₂を吸収してくれます。お風呂にたとえると、人間が出すCO₂は「蛇口の水」、森や海の吸収は「排水口」です。蛇口から出る量が排水口から流れる量を上回っているため、浴槽の水位、つまり大気中のCO₂濃度は上がり続けています。ハワイのマウナロアでは1958年に315ppmでしたが、世界平均でも2016年には403ppmに達しました。
温暖化が進むと、熱波や大雨、干ばつが増えたり、北極の氷や氷河が溶けて海面が上がったりと、私たちの暮らしや自然に影響が出ます。だからこそ、蛇口を絞ってCO₂の排出を減らすことが大切です。省エネや再生可能エネルギーの利用、森を守ることなど、一人ひとりの行動の積み重ねも力になります。








