マンファア(用益権)は実質的な所有権

イスラーム法におけるラカバとマンファアは、通常、それぞれ所有、用益と訳される。

西欧近代法では、用益は所有の下位概念である。しかし、イスラーム法の概念枠では、マンファア(用益)はそれ自体が所有の対象となる客体であり*、西欧近代法でいう所有の概念に近似している。

ここに、西欧近代法でいう用益権が、所有権とは切り離され、取引される不動産市場が成立することになる。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第5章:法・第3節:イスラム土地所有権構造  加藤博(東京大学出版会、1995年)
私的土地所有権とエジプト社会』 第二部第5章:エジプトにおける私的土地所有権の確立  加藤博(創文社、1993年)
「イスラーム法における所有権の構造―基体果実と使用果実を中心として」柳橋博之 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)

* これは、第2巻『歴史編』で議論される国家的土地所有観念の発想と表裏の関係で発達した考え方。征服地のうち特に武力で征服されたとされる地域は国有地(国家にラカバが属する土地)とされ、ゆえにその保有者はアラブ・非アラブを問わず、一律にマンファアのみの所有者であり、用益地代としてハラージュ(地租)の納入義務を負うとされた。(参照:「第2巻第4章第3節:国家的土地所有観念の変遷」)[編集部]

□参照知識カード:
イスラームの「長い16世紀」 オスマン 第2巻第4章
征服地の所有権と用益権
所有権、徴税権、用益権
市場経済と公共の福祉


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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