しかし、このラカバの概念を受け入れることによって、不動産市場に明らかな効果が生じる。それは、人の物に対する支配関係、つまり所有関係を、人と人との契約関係に変化させることである。
物の究極的な所有者が神、あるいは「神の共同体」としてのウンマであるならば、人が物の所有者ではありえない。人に許されているのは、排他的ではない物の「占有」であり、その利用である。
かくして、物権の債権化が可能となる。物権の債権化とは、問題の所在を人と物との関係を定めた財産法の次元から物に共通の権益を持つ人と人との関係を定めた契約法の次元へと転換させることである。
参考文献:
『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第5章:法・第3節:イスラム土地所有権構造 加藤博(東京大学出版会、1995年)
『私的土地所有権とエジプト社会』 第二部第5章:エジプトにおける私的土地所有権の確立 加藤博(創文社、1993年)
★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。
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