見返りや負い目の感覚を生まない社会基盤に関連して、イスラーム文明圏にあるアフガニスタンで長く医療行為から灌漑工事まで人道支援に取り組んできたNGO「ペシャワール会」の現地代表で、医師の中村哲が次のようなエピソードを紹介している。
市場で乞食に小銭を施したのだが、相手の男は堂々としていて礼も言わない。怪訝に思った中村は「人から施しを受けるにしては少し態度がデカいのではないか」と言ってみた。すると相手はこう言ったという。
「ザカート(喜捨)というのは貧乏人に余り金を投げやるのではありませんぞ。貧者に恵みをあたえるのは、神に対して徳を積むことです。その心を忘れてはザカートもありませぬ」 。*
参考文献:
『アフガニスタンの診療所から(ちくま文庫)』 中村哲(筑摩書房、2005年)
*この話には続きがある。中村がさらに「私も人に見捨てられたらいの患者のために、はるか東方から来てかくかくしかじかのことをしておる。ならば、これもザカートということになりはしないか」「そのとおり」「ならば、あなたも我われの仕事に施しをなされ、神は喜ばれますぞ」。するとその乞食はちゅうちょなく手元に集めた小銭すべてを中村に寄付した、という。
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