イスラーム事業体への評価

現在、イスラーム事業体への肯定的な評価がみられるようになったが、それは、イスラーム事業体が現代の国際金融環境の変化に適合的だからである。

国際金融環境の変化とは、規制撤廃による受信・与信業務の境界の流動化に象徴される経済のグローバル化である。それは、資本主義の「グローバル化」であり、「IT化」であり、「金融革命」である。

その結果、銀行、証券、保険などの多種多様な業種の間の垣根は取り払われ、債権、株式、外国為替、先物、オプション、スワップ、保険などの市場が自由で緊密なネットワークとして再編成されるようになった。

その結果、金融と実業の関係が深まり、金融業種の統合が進むなかで、イスラーム黄金期の特徴だった「銀行なき銀行家」の世界と類似の経済環境が生じた。*

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第一部第7章:イスラム金融と金融資本主義  加藤博(書籍工房早山、2010年)
現代イスラーム金融論』  長岡慎介(名古屋大学出版会、2011年)
イスラム金融の現代的発展 イブラヒム・ワード(Ibrahim Warde)萩谷良訳 http://www.diplo.jp/articles01/0109-4.html
(cf. Ibrahim Warde, Islamic Finance in the Global Economy, Edinburgh University Press, 2000)

* 前近代のイスラーム世界では、われわれのいう金融機関なるものはなく、様々な業種が様々な金融の機能を担っていた。つまり「銀行なき銀行家」の金融の世界であった。現代におけるイスラーム金融においても、イスラーム法で認められたさまざまな形態の契約に基づいて、受信業務および与信業務を行うこと、つまり、資金運用業務のみならず、事業展開および小売業務をも行う多目的な企業業務が通例である。


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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