中東は農耕の発祥地:高い生産性の農業

砂漠性乾燥気候に住む人びとは、オアシスや川など、地表の水のほか、地下水の水を農耕に利用するために、古来、精緻な灌漑技術を発展させてきた。砂漠は水さえあれば、豊かな耕地となりえる。

現在のシリアの北部、トルコの南部地域が、農耕の発祥の地とされている。古代文明は、灌漑農業の高い生産性に支えられていた。西アジアからヨーロッパにかけては、耕地単位面積あたりの収穫高によってではなく、播種量の何倍の収穫が得られるかによって生産性の高さを示すのが普通である。古代の粘土板にきざみこまれた文書記録によれば、紀元前2350年ごろの南メソポタミアのシュメールの都市ラガシュでは、実に播種量のほぼ80倍の収穫があった。* 

参考文献:
栽培植物と農耕の起源(岩波新書)』  中尾佐助(岩波書店、1966年)
オアシス農業起源論(学術選書)』  古川久雄(京都大学学術出版会、2011年)
古代のメソポタミア(図説 世界文化地理大百科)』  マイケル・ローフ 松谷敏雄訳(朝倉書店 (1994年) 

*  この数字がいかに高いものであるかは、古代ローマ時代のイタリア半島で4倍ほど、ヨーロッパ中世では2、3倍ないし5、6倍であったことと比べてみれば明らかである。ちなみに、今日のイランでの数字は10倍前後である。こうした灌漑農業における高い生産性はイスラーム時代においても維持され、ダマスクス、バグダード、カイロなどの大都会における繁栄の基礎となった。


 

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