イスラーム世界の事業代行制度

契約社会にあっては、事業の遂行は代理業務の連鎖によってなされる。*

イスラーム世界において、代理契約による協同事業を実現させる事業代行制度は、ワカーラ(wakāla)と呼ばれた。そして、契約によって代理人となった者がワキール(wakīl)である。

ワキールという言葉は、事業の代理人のほか、領主経営において領主に代わって領地を管理し、貢租を徴収する代官、法廷において当事者に代わって答弁する代理人など、さまざまな領域での代理執行者に対して使われた。

参考文献:
イスラム世界の経済史』 第二部第2章第2節:イスラムにおける契約観  加藤博(NTT出版、2005年)
イスラム法通史』  堀井聡江(山川出版社、2004年)

* こうした代行制度は、形式的には契約という体裁をとった。しかし、代理契約を結ぶ当事者たちは私的な保護・被保護関係に代表されるパーソナルな関係を結んでいることが多かった。そこから、賄賂、売官など、縁故社会にみられる悪習の助長をもって、イスラーム世界が非難されることもある。しかし、これらの悪習は、契約社会における代理制度の普及の証しでもあった。


 

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