イスラーム世界においては、文書の作成は契約の成立にとって重要ではなかった。
理論的には、契約文書の法的拘束力は、口頭での資格ある証人による内容証明を待って初めて生じた。契約において義務を発生させるのは、あくまでも、契約の存在とその内容についての口頭での証言であった。
文書の存在は、せいぜい、口頭での証言を補強する役割しかなかった。
もっとも、これは、イスラーム法の理論のうえでの話である。実際の契約では、その履行が担保されることが重要であり、それさえ保証されれば、契約が口頭でなされようが、文書の形式を取ろうが、問題ではない。
実際、イスラーム世界での商人の活動が空間においても種類においても広くかつ煩雑になると、文書による契約が必要になっていった。*
参考文献:
『イスラム世界の経済史』 第二部第2章第2節:イスラムにおける契約観 加藤博(NTT出版、2005年)
『イスラム法通史』 堀井聡江(山川出版社、2004年)
* 中世カイロのユダヤ・コミュニティが残し、ゲニザ文書と総称されている——ゲニザとは、ヘブライ語で「倉庫」の意味で、ユダヤ礼拝所(シナゴグー)の倉庫から発見されたため、この名がある——膨大な契約文書は、このことをよく示している。(S.D. Goitein, A Mediterranean Society, 5 vols, University of California Press, 1967-88 )
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