「持続可能性」の通時的視点を感得するのに必要な施策
エコロジカル経済学は共時的視点と同時に通時的視点を重視します。ふたつの施策はこの点と関係があります。これまで意識に上ることが少なかった通時的視点を覚醒させるためには、わたしたちの経済生活の現状と将来を見える化、可視化する必要があり、永続地帯も未来カルテもこの観点で創案、公開しているものです。
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持続可能性を軸として
伝統的な経済学は利潤や効用をいかに上げるかを基軸に理論が構築されています。結果として「成長」が最終目標になりがちです。対して、エコロジカル経済学は「近代」が作り上げた自由と平等の社会理念を尊重しつつ、しかしそれが「持続」される経済の仕組みでなければ、人間社会は瓦解するという危機感の上に、持続可能性を軸として理論を構築しています。
持続可能性を軸として社会を変えていくことがエコロジカル経済学の最終目標です。
変えていくには、人々が行動を起こさなければいけません。生活者が、学生が、教育者が、企業人が、政府が、行政が。そしてあらゆる層から行動が起こされるには、まず世界観や価値観のシフトがなければなりません。それも内在的に自発的に。お仕着せでは本当の意味で社会は変わりません。
そのために必須なのが、現状と(いまのままを続けるとこうなる)将来の、見える化、可視化です。
また世界観や価値観のシフトの中には、時間感覚のシフトも重要です。
通時的視点の重要性
社会を変える、というとき、どこから手をつけるのか。それには経済社会のストラクチャがわかっている必要があります。エコロジカル経済学の観点からの「経済社会のストラクチャ」です。
経済社会は、人のストック、モノのストック、自然のストック、しくみや関係性のストックで出来上がっています。それぞれは人的資本(人ストック)、人工資本(モノストック)、自然資本(自然ストック)、社会関係資本(仕組み・関係性ストック)であり、この四つの資本ストック(資本基盤)の持続可能性が課題です。
資本基盤の持続可能性を確保するためには、資本基盤の量に応じた「手入れ(ケア・メンテナンス)」を行うことが求められます。とくに、人口が減少していく中で、各資本基盤の「手入れ(ケア・メンテナンス)」のための力を確保することが喫緊の課題となっています。
ところが、伝統的経済学では、「いま、ここ」という同時的視点でしか事態を把握しようとしません。いきおい経済の「成長」で上記課題は解決すると主張しがちです。持続可能性の視点が抜け落ちているからです。同時的とは、言葉を変えると「遅くともあなたが生きているうちには」、ということです。選挙でも説得しやすいので、政治家もまた行政側でも「成長」による課題解決に躍起なっているのが現状ですが、しかし平成の三十年間で課題は解決の方向へ向かったでしょうか。GDPの成長という経済指標は不完全な経済指標だと言わざるを得ません。
そもそも資本基盤に対する政策は地域ごとに行われる必要があります。また持続可能性の原義に忠実に考えるなら、「わたしが生きている時間を超えて」という時間感覚が重要です。つまり、世代にまたがる通時的な時間感覚です。すなわち現況の危機的状況を打開するには、地域ごとの資本基盤の状況に応じて、過去の世代の思いを将来の世代に伝える「通時的コミュニティ意識」を地域で醸成する形で進める必要がある、というわけです。
永続地帯とは
永続地帯とは、ある区域で得られる資源によって、その区域におけるエネルギー需要と食糧需要のすべてを賄うことができる、つまりこの二つの観点からの「持続可能性」が推定される区域のことです。
千葉大学・倉阪秀史教授が提唱した概念で、千葉大学倉阪研究室と環境エネルギー政策研究所(ISEP)が共同作業を毎年行っており、2018年度の報告書では、2018年3月時点で、
・地域のエネルギー需要を上回る量の再生可能エネルギーを生み出している「100%エネルギー永続地帯」は、100市町村に到達した
・食料自給率が100%を超えた市町村は566 市町村。100%エネルギー永続地帯である100 市町村のうち、58市町村が食料自給率でも100%を超えた
ことが発表されています。
未来カルテとは
資本基盤は「手入れ(ケア・メンテナンス)」を適切に行うことで、より長期間使用できるようになり、また、時間当たりのサービス提供量を増やすことができます。しかし「手入れ」には相応の知識と技術が必要です。つまり「手入れ」のための労働力には、 知識と技術の習得にコストと時間がかかるため大量生産ができず、大きく利潤を上げることができないという特徴があります。
具体的には、保育・教育・医療・介護(人的資本基盤)、建設・建築(人工資本基盤)、農林水産・再生可能エネルギー(自然資本基盤)、各種公務・NPO(社会関係資本基盤)といった分野での労働のことです。
人口が減る中で壊したほうがいい資本基盤もあるでしょう。将来にわたって維持すべき資本基盤は何で、その量はどれほどか。その数値を前提に必要となる「手入れ労働」を確保すための「収入」を想定、地域とごに議論することが大事です。
この議論の素材が未来カルテです。
未来カルテには、このままでいくと、その市町村の産業構造や、保育、教育、医療、介護の状況、公共施設・道路、農地の維持管理可能性、財政収支がどうなりうるのか、各種統計データを用いて、5年ごとにシミュレーションした結果などが掲載されています。
人々が行動を起こし、持続可能性を軸として社会を変えていくためのサバイバル・キット、それが永続地帯であり、未来カルテです。
「未来を予測する一番いい方法は、自らそれを創ることだ。(アラン・ケイ)」
※アラン・ケイ:パーソナルコンピュータの父と言われる人物。1960年代当時、コンピュータは化け物のように巨大で、当然高価であり、複数人で共用するのが当たり前だった。アラン・ケイはしかしコンピュータに、「個人向け」という利用状況を想定し、それに相応しいコンピュータ環境がどうあるべきかを考えた。
持続可能性を軸として社会を変えていくことがエコロジカル経済学の最終目標だとして、その実現には政策として具体化する必要があります。資本基盤マネジメント、必要な手入れ量と労働力のマッチング、手入れに対する応益負担原則、コンパクトシティ、里地里山の保持、森林環境税など多岐にわたる参考文献の参照が必要でしょう。
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■参考文献(書籍)リスト
(参考文献のもっと詳しい内容は、書籍タイトルをクリック。知識カード(書名の下)もクリックするとコンテキスト(文脈)がわかりとても便利。)
「環境と福祉」の統合
永続地帯
Critical Loads and Dynamic Risk Assessments
同化効率の向上
Ecological Tax Reformh
エコロジカル税制改革
Product-Service System Design for Sustainability
サービサイズ
STOP! 鳥獣害
里地・里山の劣化
アセットマネジメント導入への挑戦
資本基盤マネジメント
シェア
サービス効率の向上
シェアリング・エコノミー
持続部門に属する産業分野
拡大生産者責任の環境経済学
前払い処理費・引き取り処理義務
環境アセスメント学の基礎
環境アセスメント
環境と経済を再考する
手入れに対する応益負担原則
環境と経済を再考する
環境負荷に関する応因負担原則
環境を守るほど経済は発展する
サービサイズ
環境を守る森をつくる
人工林か天然林か
環境自治体白書2016-2017年版
必要な手入れ量と労働力のミスマッチ
維持すべき資本基盤量の見積もり
「完全手入れ」という政策目標
環境政策論 第三版
補完性原理
環境税の政治経済学
カーボン・プライシング
限界費用ゼロ社会
サービス効率の向上
最新Q&A外形標準課税ハンドブック
環境外形標準課税
人口減少・環境制約下で持続するコミュニティづくり
持続部門
成長部門
「1人当たりの健全なストック量の確保」という政策目標
生態系サービスという挑戦
生物多様性オフセット
地図で読む
持続部門に属する産業分野
日本の美林
人工林か天然林か
排出権取引―理論と実験による制度設計
カーボン・プライシング
◎これは『なぜ経済学は経済を救えないのか(倉阪秀史)上下巻』の「第四章 持続可能性を確保するための政策群」の参考文献(書籍)をリスト化したものです。
書籍のフルタイトルは『なぜ経済学は経済を救えないのか━資本基盤マネジメントの経済理論へ━(下) 政策展開の経済理論』です
■iCardbookのメリット ★読書にコスパ★
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・必須:「この記述の典拠はいったい何なのか」に応える準備があること
文章中の典拠明示
註
参考文献一覧 他
・望ましい:索引用語一覧があること(ebookになるとビューアに検索機能があるので不要か)
上の条件を満たした書き物の中には、学術書だけでなく啓蒙書や入門書もありえます。
◎『なぜ経済学は経済を救えないのか』の章別参考文献リストのインデックスに戻る
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