こうした利己的行動と利他的行動の二項対立を超克する可能性を秘めたものとして、第7章「伝統的イスラーム経済制度の再生」で取り上げたワクフやザカートがある。
ワクフは、商業施設からの儲けを公共・福祉施設の運営に充てるしくみである。そこでは前者からの儲けが増えるほど、後者の運営、つまり、社会的弱者への支援が充実することになる。
言い換えれば、利己的行動にもとづく富の追求をすればするほど、結果として利他的行動に相当する他者への支援が加速してしまうのである。それは、利己的行動の意図せぬ利他的帰結と呼べるようなものである。
参考文献:
「現代イスラーム経済の挑戦―ポスト資本主義時代の新たなパラダイムのために」長岡慎介 『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』221-248頁、 村上勇介・帯谷知可編(京都大学学術出版会、2017年)
『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』第3章第3節:ビジョンの制度化/第7章第5節:経済統合システムとしてのワクフ 加藤博(詩想舎、2020年)
Shinsuke Nagaoka “The Future of Capitalism and the Islamic Economy.” In Stomu Yamash’ta, Tadashi Yagi and Stephen Hill eds. The Kyoto Manifesto for Global Economics: The Platform of Community, Humanity, and Spirituality. Springer, pp. 395-415, 2018.
□関連知識カード:
個人の欲望と共同体の福祉との融合
市場経済と公共の福祉
★この記事はiCardbook、『資本主義の未来と現代イスラーム経済(下) 金融資本主義からの脱却と「利他利己」の超克』を構成している「知識カード」の一枚です。
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