イスラーム経済の有機的再統合

ところで、有機的に統合したイスラーム経済システムは、この21世紀に歴史上初めて登場したものなのだろうか。

社会経済史家の加藤博(1948年~)は、近代以前のイスラーム世界の市場社会を、ワクフを基軸に据えた1つの経済統合システムだと表現している。加藤のモデルは、まさに先ほど述べたイスラーム経済の有機的統合モデルときわめて類似したものである。したがって、私たちの目の前で起こっているイスラーム経済の新しい実践は、近代に入り西洋の植民地支配を経ていったんは瓦解させられたイスラーム経済システムが、21世紀に再び統合されようとしているダイナミズムだと言うことができるのである。

参考文献:
イスラム世界論―トリックスターとしての神』  加藤博(東京大学出版会、2002年)
「現代イスラーム経済の挑戦―ポスト資本主義時代の新たなパラダイムのために」長岡慎介 『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』221-248頁、  村上勇介・帯谷知可編(京都大学学術出版会、2017年)
イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』第7章第5節:経済統合システムとしてのワクフ  加藤博(詩想舎、2020年)
Shinsuke Nagaoka “Resuscitation of the Antique Economic System or Novel Sustainable System? Revitalization of the Traditional Islamic Economic Institutions (Waqf and Zakat) in the Postmodern Era,” Kyoto Bulletin of Islamic Area Studies 7, pp. 3-19, 2014.

□関連知識カード:
 イスラーム社会は「交換」を基本とした社会
 ワクフにみるイスラーム社会の経済統合システム

 

 


この記事はiCardbook、『資本主義の未来と現代イスラーム経済(下) 金融資本主義からの脱却と「利他利己」の超克』を構成している「知識カード」の一枚です。



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