ワクフにみるイスラーム社会の経済統合システム

そして、ワクフ(イスラーム的寄進)こそ、この交換を介した経済統合メカニズムを観察するに、恰好な制度である。

ワクフはまず何よりも、イスラーム教徒によって宗教的精神の発露である喜捨、つまり「互酬」に基づいてなされる行為であった。

と同時に、すでに指摘したごとく、「互酬」行為のパーフォーマンスとして所得の再分配と社会資本の形成をもたらした。

つまり、それは、目に見える形ではないものの、社会にビルトインされた再分配のチャンネルとして機能した。

こうして、ワクフは、動機として「互酬」を、パーフォーマンスとして「再分配」の機能をもった。ところが、この二つの機能が発揮されるためには、そもそもワクフが運営される必要があるが、この運用は「交換」からあがる収益をもってなされた。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第6章:宗教・第4節:経済統合システムとしてのワクフ制度  加藤博(東京大学出版会、1995年)
イスラム世界の経済史』 第二部第5章:ワクフ(寄進)制度にみるイスラム市場社会  加藤博(NTT出版、2005年)

 


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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