言葉の多義性

現実において言葉と対象とは一対一対応していません。

知能の内部の、表現されるもの(シニフィエ)と表現するもの(シニフィアン)が対応するのは精神の内側においてです。精神の内に言葉ならぬ対象化されたものは記号(シニフィアン)を求め顕在化し、精神を抑圧します。シニフィアンは言わば、精神という荒海を鎮める秩序でもあります。

また、言葉にも絶対的な意味や使用法はありません。言語が人間の精神を構造化している一方で、日常における言語は世界のその場、その時の状況に則して成立しています。精神の内部の言語と、日常言語が二重化しているのです。それは常に、文脈依存的です。※I):たとえば「水!」と言った時、「水が飲みたい」「水を差す」「お湯じゃなくて水を」といった、シチュエーションごとの様々な違った意味を込めて使っています。つまり文が語の意味をある程度規定しているといえます。それは文の生成が単に言葉の集合から来るものではないことを意味しています。つまり我々の精神は常に言葉の組み合わせの化学を探求しているのです。


■参考文献
論理哲学論考』  ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン 原著一九二一年 ※II):生前唯一の出版物。番号付きのアフォリズムから成り、主題は論理学の哲学であるが、そこから得られる帰結は哲学のほぼ全領域にわたり、論理実証主義の成立に大きな影響を与えた。 [編集部]

★この記事はiCardbook、『<人工知能>と<人工知性>: —— 環境、身体、知能の関係から解き明かすAI—— 』を構成している「知識カード」の一枚です。

人工知能と人工知性
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I. :たとえば「水!」と言った時、「水が飲みたい」「水を差す」「お湯じゃなくて水を」といった、シチュエーションごとの様々な違った意味を込めて使っています。つまり文が語の意味をある程度規定しているといえます。それは文の生成が単に言葉の集合から来るものではないことを意味しています。つまり我々の精神は常に言葉の組み合わせの化学を探求しているのです。
II. :生前唯一の出版物。番号付きのアフォリズムから成り、主題は論理学の哲学であるが、そこから得られる帰結は哲学のほぼ全領域にわたり、論理実証主義の成立に大きな影響を与えた。 [編集部]