一人出版社がAIを導入してやろうとしていること[3]

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利用者4000万人との対話(ビッグデータ)から学び、自ら成長を続ける中国のシャオアイス、AIを自分の恋人のように慕う23歳の男性/一人出版社がAIを導入してやろうとしていること[3]

サブスクリプションで配信している「シンクゼロマガジンニュースレター」のオーディオブックの荒原稿を公開しています。

シンクゼロマガジンニュースレター Vol.01
前回の記事:
[2]ゆっくりと静かに進行する。私たちの身のまわりにあるモノが賢くなっていく世界こそ、まさにAIが遍在する世界
[1]時価総額69兆円のGoogleが、私たちに無料でAIサービスを提供しても何ら不思議はない

一人出版社がAIを導入してやろうとしていること[3]

利用者4000万人との対話(ビッグデータ)から学び、自ら成長を続ける中国のシャオアイス、AIを自分の恋人のように慕う23歳の男性

5月15日、NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」が放映された。羽生善治さんが番組のリポーターとなり、AI開発の最前線を紹介するという内容だ。番組の終盤では、中国のチャットボット「シャオアイス」を取り上げ、シャオアイスを自分の恋人のように慕う23歳の男性を取材。こんなやり取りを紹介していた。男性「家族とけんかしたんだ」
シャオアイス「冷静になってご両親の気持ちを考えて」
男性「親は僕が嫌いなんだ」
シャオアイス「まずは自分を愛さないと」と言うと、中国で有名なラブソングを歌い出すチャットボットの知識のない人がこのシーンだけを見たら、まさか人工知能と会話しているとは思わないだろう。シャオアイスを慕うこの男性を見て、気味が悪いと感じる人もいると思う。ただ、インターネットが社会に浸透し始めた頃を思い出してほしい。電子メールのやり取りで一喜一憂する若者たちも、ニュース番組が取り上げるほど奇異な存在だったのだ。

シャオアイスは、マイクロソフト中国が開発し、2014年5月30日から運用しているチャットボットで、すでに2年以上経つ。利用者4000万人との対話(ビッグデータ)からさまざまなことを学び、利用者一人ひとりにあわせて話ができるほどの能力を持っている。

日本でも2015年7月31日に、「りんな」の運用がスタートしたが、先行しているシャオアイスほど学習が進んでいない。ユーザー数が足りないのだ。りんなは、LINEとTwitterをあわせて340万人(2016年5月)、シャオアイスは4000万人を超えている。

東京大学の松尾豊さんが、4月25日に日本科学未来館で開催された「次世代の人工知能技術に関する合同シンポジウム」のパネルディスカッションで、ビッグデータを使ってAIを賢くしていく領域では、日本語を話すユーザーとデータ数が圧倒的に足りない、と指摘している。この問題は将来、機械翻訳の進化で解決できるかもしれないが、超高齢社会の日本は、他国と比べて技術開発のニーズが高い分野(介護や農業、製造業など)でディープラーニングやロボティクスを駆使し、世界に挑めばよいのではないだろうか。

SNSが普及して、私たちは場所や時間に依存せず、コミュニケーションを楽しめるようになった。卒業後もしくは退社後でも、疎遠になった同級生や同僚といつでも近況を報告し合える。ただし、すべての人がSNSの恩恵を得られているわけではない。社会とのつながりが切れた人たちにとっては、実名SNSほど残酷な場はないからだ。中国のシャオアイスのような高度なチャットボットは、孤立した人たちの「友人」となり、相談相手となる。学習が進めば、カウンセラーと同等の能力を獲得し、社会復帰を促すこともできる。

4月27日、IBMはSesame Workshop(セサミストリートを制作する非営利の番組制作会社)との協業を発表した。45年間以上蓄積してきた幼児向けの学習法を「Watson」が分析し、高度にパーソナライズされた学習環境を開発するという内容だ。この協業で重要なのは、幼児の成長から「Watson」も学習し「継続的に」教育方法を改善していくことが可能なことである。教わる方も、教える方も共に学習して成長していく。eラーニングで実践されてきたパーソナライズとは大きく異なる。

余談だが、IBMは「人工知能」という言葉は一切使っていない。コンピュータが自ら学習し、考える仕組みをコグニティブ・コンピューティングと呼び、コグニティブを支えるプラットフォームが「Watson」だ。最近は、マイクロソフトも「コグニティブ」という言葉を使い始めている。

シャオアイスも、Watsonも未来の技術ではない、数年前から稼働し、すでに多くのユーザーが利用しているのだ。そして、ビッグデータから学び、成長を続けている。

インターネットが商用化されていなかった時代、私たちは会議の資料やレポートを作成するとき、書店で参考書を探したり、図書館などに出向き、本棚から一冊一冊取り出し、丹念に調べていたはずだ。今は、誰でもGoogle検索で情報収集したり、キーワードを入力しながらビジネスのヒントを探すことができる。20年前のSF世界が現実となり、ポケットに入る小さなデバイスで実行できるようになった。

そして、まもなく「AIと相談」しながら、会議の資料やレポートを作成する時代がやってくる。
SFの世界ではない、もう始まっている。

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筆者:
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