人間の金銭欲は肯定すべきもの

人間もまた、唯一神アッラーの被造物である。イスラームの経済ビジョンも、すべてのイスラーム的言説がそうであるように、絶対的な神(アッラー)の存在を前提とする。

そこから、イスラーム経済における次の二つの特徴が現れる。第一の特徴は、ほかの世界宗教では否定的に捉えられる、金銭欲を含む人間のすべての欲望に対する肯定である。実際、イスラームは商売での利得について驚くほど肯定的である。*

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第6章:宗教・第1節:商業に肯定的なイスラム文明  加藤博(東京大学出版会、1995年)
「商業倫理と商業テクニック」森本公誠 『シンポジウム 東西交渉史におけるムスリム商業』  川床睦夫編(中近東文化センター、1982年)

* 商業が飛躍的な発展をとげ、イスラム教徒の商人の活動が世界的規模にまで拡大するアッバ-ス朝 (750-1258年) の時代には、商人の利潤追求を擁護し、賛美しさえする思想家が現れるようになる。8世紀にはシャイバ-ニ-が『所得の書』を著し商人の活動を宗教的に正当化した。また、9世紀にはジャ-ヒズが『商業に関する観察』と『商人賛美と官吏非難』の二つの書物を著し、支配者に従属する官吏との対照から、自由な商人を手放しで礼賛した。


 

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