ロールズの循環論法

ロールズは、生まれの差によって人生の結果に不平等が生じることは、そもそも道徳的に「独断・専横的」なことでありしたがって正しくないことであると主張する。I):ロールズは次のようにいっている。「〈自然本性的自由の体系〉では、〔中略〕社会的な条件の平等もしくは類似を維持する努力は(要件である後ろ盾となる制度を保持するのに必要である場合を除いて)払われないため、任意の期間に先立つ資産の初期分配は、自然本性的な偶発性および社会的な偶発性の強い影響力を受けてしまう。〔中略〕道徳的見地からすれば多分に独断・専横的で根拠のないこれらの要因が、分配上の取り分に不適切な影響を与えるのを許容してしまうところ——直観的に言うと、ここに〈自然本性的自由の体系〉の最も明白な不正義がある。」「能力と希求が同等の人びとの予期は、各人がどのような社会階級に所属しているかによって影響をこうむるべきではない。」(『正義論』 第二章・第十二節 第二原理の複数の解釈 (紀伊國屋書店、二〇一〇年))

そしてそれゆえ、この個人差について、各人がまずは無知な状態を設定しなければならないと主張する。

しかしこれは、明らかな論点先取りであり、循環論法といわざるを得ない。


■参考文献
『公正としての正義』  ジョン・ロールズ 原著一九七一年

苫野一徳Blog(哲学・教育学名著紹介・解説): ロールズ『正義論』 [編集部]

 

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I. :ロールズは次のようにいっている。「〈自然本性的自由の体系〉では、〔中略〕社会的な条件の平等もしくは類似を維持する努力は(要件である後ろ盾となる制度を保持するのに必要である場合を除いて)払われないため、任意の期間に先立つ資産の初期分配は、自然本性的な偶発性および社会的な偶発性の強い影響力を受けてしまう。〔中略〕道徳的見地からすれば多分に独断・専横的で根拠のないこれらの要因が、分配上の取り分に不適切な影響を与えるのを許容してしまうところ——直観的に言うと、ここに〈自然本性的自由の体系〉の最も明白な不正義がある。」「能力と希求が同等の人びとの予期は、各人がどのような社会階級に所属しているかによって影響をこうむるべきではない。」(『正義論』 第二章・第十二節 第二原理の複数の解釈 (紀伊國屋書店、二〇一〇年))