穀物市場をめぐる社会各層の思惑と対立

まず、マムルーク(白人解放奴隷)を中心とした支配層と大商人層がいる。かれらは穀物市場の実質的支配者であるが、退蔵、さらにはデマまでも駆使した投機的な市場操作に狂奔した。

次いで、中小商人その他、さまざまな職種に就いている人々がいる。かれらは国内での生産、流通過程に介在し、そのなかで出来るかぎりの利益を追求した。

そして、最後にアーンマ(‘āmma)と称される「一般の人々」、つまり民衆がいる。彼らは食糧暴動という形で生活権を守ろうとした。

カイロのすべての社会階層は、市場の動向に敏感に感応しており、かれらの穀物市場の動向をめぐる思惑と対立は、まさに国家もまた市場参加者とした「市場ゲーム」の様相を呈していた。

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第二部第7章:中世アラブの経済思想  加藤博(書籍工房早山、2010年)
長谷部史彦「14世紀末~15世紀初頭カイロの食糧暴動」 『史学雑誌』 97編10号、1988年


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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