政治論というと、我々は通常、政治体制、とりわけ国家体制についての議論を予想する。ところが、イスラーム世界の場合、これまでイスラーム政治論としてもっぱら議論の対象となってきたのは正しい統治者のあり方、つまり君主論である。
イスラームの政治観にあって、国家や政府は聖法であるイスラーム法(シャリーア)を現実に適用し、執行するために必要な、そしてそのようものとしてのみ必要な機関とみなされたため、議論はもっぱらウンマ(イスラーム信徒共同体)の指導者の資格、役割をめぐるものとなったのである。*
参考文献:
『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第4章:権力 加藤博(東京大学出版会、1995年)
『イスラーム政治論 シャリ-アによる統治』 イブン・タイミ-ヤ 湯川武・中田考訳(日本サウディアラビア協会、1991年)
『中世イスラムの政治思想』 アーウィン・ローゼンタール 福島保夫訳(みすず書房、1971年)
* そして、その議論には、二つの危機があった。第一は、預言者ムハンマドの死の前後であり、第二は、10世紀以降アッバース朝カリフの中央集権的権力が衰え、各地に地方王朝が建設されるようになり、アッバース朝の滅亡に至る、古典期から中世への移行期である。
★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。
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