森林の価値のパラドックスって何?

高い価値があるのに、維持コストが安い現象のことです

人工構造物においては通常、価値の高いものほどそれを維持するのにかかるコストも多くかかるはずです。さてそれではある森林の価値を評価します。次にその価値とその森林を維持するためのコストとを比較します。ところで森林には、原生林、天然林、人工林の三つがあります。屋久島にあるような原生林と都市近郊にある人工林とで、人々は原生林のほうに高い価値を認めるでしょう。しかしそれではコストはどうかというと、人工林の方で手入れのための圧倒的な大きさの費用がかかりますが、原生林にはほとんどコストがかけられていません。このような現象を「森林の価値のパラドックス」と呼んでいいのではないでしょうか。ここには環境を、従来型の経済学の枠組みで対処する際の問題点が凝縮されているのですから。

もっと教えて!

宮崎駿監督が映画「もののけ姫」を製作した時に何度も訪れ、この森林からイメージを得たという、ジブリ作品の原点とも言える場所が屋久島の白谷雲水峡です。ここの原生林と都市近郊にある人工林とを比べると、人はどうしても屋久島の方に高い価値を認めるでしょう。しかしここは原生林、ほとんど人手が加えられたことのない自然のままの森林。つまり自然自身が自らの力でその姿を維持し、多様な生物種を育み豊かな生態系を保持している、そういう性質の森林が原生林なのです。

白谷雲水峡|鹿児島県観光サイト/かごしまの旅

「森林の価値のパラドックス」は人工構造物を対象にするときに行う発想とは異なるやりかたで「環境」を検討すべきことを暗示する、つまり経済学的には、新古典派経済学の枠組みがもたらす歪みを指し示す象徴的な事例と言えます。

なぜ歪みが発生したのでしょう。

環境は物理学的法則や生物学・生態学的な振る舞いによって自律的に存在しています。つまり、人間の意思決定や制度から独立しているのです。これは新古典派経済学からすれば想定外のことです。

これはすなわち「人間の意思決定から独立して挙動する環境」の存在を前提にした新しい経済学が必要だ、ということではないでしょうか。


森林の価値のパラドックスは新古典派経済学の枠組みでは環境を適正に取り扱えないことをあぶりだす現象です。森林の価値のパラドックスから、「人間の意思決定から独立して挙動する環境」の存在を前提にした新しい経済学が必要だ、ということに気づくべきです。エコロジカル経済学の存在意義はここにあります。それを知る参考となる書籍を紹介していきましょう。

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■参考文献(書籍)リスト

(参考文献のもっと詳しい内容は、書籍タイトルをクリック。知識カード(書名の下)もクリックするとコンテキスト(文脈)がわかりとても便利。)

Environment and Economy
 自由市場派への反論
Free Market Environmentalism
 自由市場環境主義

Inclusive Wealth Report 2014
 包括的富の指標
ホントは世界で一番豊かな国 日本
 包括的富の指標の限界

環境と経済を再考する
 外部性
 森林の価値のパラドックス
 自然の恵みを確保する仕組みの欠如
環境を守るほど経済は発展する
 外部性の内部化
 ピグー税

環境経済学をつかむ 第2版
 環境価値の貨幣評価
企業・市場・法
 コースの定理

朽ちるインフラ
 包括的富の指標の限界
経済学原理
 マーシャルの外部経済

市場・知識・自由
 市場介入派vs自由市場派
将来世代に公正な地球環境を
 世代間の衡平を確保する仕組みの欠如

新しい環境経済学
 環境価値の貨幣評価の諸手法
新国富論
 包括的富の指標

生命系のエコノミー
 生命系の経済論
入門 環境経済学
 市場介入の最適な程度の決定


 

◎これは『なぜ経済学は経済を救えないのか(倉阪秀史)上下巻』の「(上)第四章 実物界から離脱した経済学による環境問題へのアプローチ」の参考文献(書籍)をリスト化したものです。

書籍のフルタイトルは『なぜ経済学は経済を救えないのか━資本基盤マネジメントの経済理論へ━(上) 視座と理念の大転換』です


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文章中の典拠明示

参考文献一覧 他

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