文化信念と経路依存性:アブナー・グライフの歴史制度分析

歴史制度分析の唱道者、アブナー・グライフは、経路依存性の概念を使って、近代西欧における個人主義的信念と中世地中海世界での北アフリカ・ユダヤ商人社会における集団主義的信念とを比較しつつ、文化信念が経済行動に与えた影響を分析した。

つまり、個人主義的信念と集団主義的信念は、社会のメンバーが共有する期待を背景に形成された制裁システムを通して、市場経済の担い手である商人の行動パターンに、そしてひいてはその社会の経済発展パターンに決定的な影響を与えた、と論じたのである。

ここで注意すべきは、グライフが設定した個人主義的信念と集団主義的信念の二つはあくまでも文化信念の類型上の違いであって、どちらが進歩しているとかの、単線的な発展段階論的な歴史類型ではないということである。両者は同じ理論枠で論じることができる二つの可能な道なのであり、両者の違いを生み出したのは、初期条件ならびに慣性をもたらす経路として機能した、文化信念の違いであった。

参考文献:
比較歴史制度分析』  アブナー・グライフ 神取道宏・岡崎哲二訳(NTT出版、2009年)


 

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