岩井克人の市場経済観

市場経済と資本主義の関係について、興味深い議論を展開しているのは、経済学者の岩井克人である。岩井にとって、市場経済と資本主義は同義である。そのうえで、岩井は資本主義の利潤創出原理を、二つの価値システムの間に不可避的に存在する「差異」に求める。その論理は単純明快である。そこで議論されているのは、あくまでも抽象的な関係のなかでの「差異」であって、そこに経済の実態が入る余地はない。

岩井は利潤の源泉を労働する主体としての人間にみる労働価値説を、産業革命以後の産業資本主義を擁護するイデオロギーであるとして、その虚構性を暴く。つまり、産業資本主義であっても、その利潤の源泉は、人間が投下する労働の価値という実態にあるのではなく、生産手段を奪われた労働者の労働力の価値とかれらの労働の生産物の価値との間に存在する抽象的な格差にある。

参考文献:
ヴェニスの商人の資本論(ちくま学芸文庫)』  岩井克人(筑摩書房、1985年)


 

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