イスラーム経済は純粋な市場経済

こうした受身的、能動的な二つの市場にまつわる理由に増して、イスラーム経済史を市場の発展の歴史として叙述するのは、ほかならぬイスラーム経済が市場を前提とした経済だからである。

イスラーム世界で展開した経済を、誤解を恐れず一言で断じれば、純粋な市場経済ということになる。*

参考文献:
イスラム世界の経済史』 序  加藤博(NTT出版、2005年)
イスラム世界論―トリックスターとしての神』 第二部第4章:市場社会としてのイスラム世界  加藤博(東京大学出版会、2002年)

* こう述べると、ほとんどの日本人は、驚き、さらにはあきれるのではないだろうか。市場経済は近代ヨーロッパに発した経済システムとして、西欧に結びつけられて考えられてきたからである。たしかに、現在の資本主義は市場を核とした経済システムとして、産業革命後の近代ヨーロッパで成立した。その市場経済をキーワードに、現在、発展途上地域として苦しんでいるイスラーム世界の経済を、それも過去の経済を読み解くとは、理解しがたいというわけである。しかし、こうした違和感は、われわれが過去を現在から出発して解釈することから生じる。


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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