イスラーム世界は商人の社会

前近代のイスラームの世界は交易の世界であり、その経済の繁栄の多くは商業によってもたらされた。イスラーム世界は、基本的には商人の社会であった。その商業的性格は顕著であり、生産局面の繁栄も、流通側面の繁栄を抜きには考えられなかった。* 

産業革命以前の前近代にあって、生産局面での飛躍的な向上をもたらす技術革新(イノベーション)や新たな市場の開拓の多くは、ひととものの移動、つまりは流通によってもたらされた。早く最新の技術や情報を得られることが、商業のみならず、農業と工業の高い生産性を保証した。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第3章:市  加藤博(東京大学出版会、1995年)

*  もちろん、イスラーム世界の経済の繁栄が商業だけに基づいていたというわけではない。たとえば、歴代のイスラーム王朝の首都となってきたバグダ-ド、カイロ、イスタンブルなどの大都会はその最盛期に数十万の人口を擁したが、このような大都会は、後背地における精緻な灌漑システムによる生産性の高い農業と都市部における多様な産業の存在を抜きにしては考えられない。


 

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