タラル・アサドの世俗論

近代西欧文明は、宗教と世俗の分離を謳っている。しかし、これは多分に建前であって、現実には、この両者の関係は地域・国によってニュアンスを異にし、多様で複雑である。社会の世俗化を論じた文化人類学者のタラル・アサドは、「世俗主義」と現実の社会の「世俗化」とを区別した。

アサドによれば、「世俗主義」とは、「私」と「公」の分離というプログラムを主張する近代欧米社会に特有の政治的教理である。近代において社会の「世俗化」を推進したのは「世俗主義」である。このことに間違いはない。しかし、「世俗」はこの政治的教理としての「世俗主義」に集約されない、より広く多義的な概念である。

参考文献:
宗教の系譜-キリスト教とイスラムにおける権力の根拠と訓練』  タラル・アサド 中村圭志訳(岩波書店、2004年)
世俗の形成-キリスト教、イスラム、近代』  タラル・アサド 中村圭志訳(みすず書房、2006年)


 

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