分かち合いと所有

狩猟採集社会では、すべての人がどんな作業でもこなせるオールラウンド・プレイヤーでありながら、男女の間で役割が分かれている。移動するので個人が所有する物は少なく、共有と平等な分配が原則である。分かち合いの社会がそこにはあった。

これに対して、農耕社会では老若男女すべてが同じ作業に参加する。労働の均一化が起こり、その結果として特定の技術を持つ専門家が登場し、道具や技術や知識を共同体全体に貢献させようとする機運が生まれる。また、農耕・牧畜では投資した労力がすぐに利益に直結するわけではなく、状況に応じた管理が重要になる。そのため、収穫物は労力を投資した者の所有となり、資源の価値や投資に見合う配分が求められるようになる。


■参考文献
「平等主義の進化史的考察」  市川光雄(『ヒトの自然誌』所収 [一一~三四ぺージ] 田中二郎・掛谷誠編(平凡社、一九九一年))

「ささやかな饗宴——狩猟採集民ブッシュマンの食物分配」  今村薫(『続自然社会の人類学——変貌するアフリカ』所収 [五一~八〇ページ]  田中二郎・掛谷誠・市川光雄・太田至編(アカデミア出版会、一九九六年))

「分かちあう世界―アフリカ熱帯森林の狩猟採集民アカの分配」  竹内潔(『暮らしの文化人類学第五巻 カネと人生』所収 [二四~五二ページ] 小馬徹編(雄山閣、二〇〇二年))

★この記事はiCardbook、『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality)(下)共感社会と家族の過去、現在、未来』を構成している「知識カード」の一枚です。

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