シャリーアを補助する規範群:カーヌーンとウルフ

シャリーアは一枚岩の規範体系ではなかった。

シャリーアは確かにイスラーム教徒の生活全般に係わる規範群であった。しかし、近代以降は言うにおよばず、前近代においても、イスラーム世界の住民が、さらにはそこでのマジョリティであるイスラーム教徒でさえもが、その生活においてシャリーアだけに律せられていたわけではなかった。

彼らはシャリーア以外の、シャリーアを補助する規範群にも服していた。その一つは、アラビア語でカーヌーンと呼ばれ、国家を定立者とし、統治の必要から時の政治権力者が公布した、それゆえに行政法あるいは世俗法と訳される規範群である。

そして、もう一つは、アラビア語でウルフあるいはアーダと呼ばれ、地域社会を定立者とし、その多くが時間的あるいは地域的に限定された適用範囲をもつ不文法であるため、慣行あるいは慣習と訳される規範群である。

参考文献:
イスラム世界論―トリックスターとしての神』 第二部第3章第2節:イスラム法とイスラム法体系  加藤博(東京大学出版会、2002年)

□参照知識カード:
イジュティハードとは


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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