沿岸交易と遠距離交易

この議論は、オスマン帝国を始め、歴代のイスラーム王朝が基本的には内陸志向であったところから説得力を持つ。

しかし、この議論では、海上交易と言っても、海岸線近くを航行する沿岸交易と、はるか沖合を航行する遠距離交易とが必ずしもはっきりと定義されていない。

伝統的なイスラーム世界での交易システムでは、多くの海上交易は海岸線近くを航行する沿岸交易であり、陸上ルートでの交易を補完するものとして機能し、それゆえに陸路での交易に含まれてしかるべきである。

つまり、海岸線近くを航行する沿岸交易が、海を使った交易であるというだけで、はるか沖合を航行する遠距離交易との区別のないまま海路での交易とされるため、陸路での交易が低く見積もられがちである。

参考文献:
「世界経済史におけるイスラ-ムの位置」加藤博 『社会経済史学の課題と展望』  社会経済史学会編(有斐閣、2002年)
海が創る文明―インド洋海域世界の歴史』  家島彦一(朝日新聞社、1993年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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