イスラームにおける宗教権威と政治権力

ムハンマドの死は、イスラーム教徒にとって、神の啓示を受け得る最後の預言者を失ったことを意味した。

この時点で、神の啓示を根拠とした宗教的権威は永久に失われ、宗教的権威と政治的権力をその人格において体現した指導者によってイスラーム信徒共同体(ウンマ)が統治される時代は終わった。

イスラーム教徒は、ムハンマドの死という危機を、ムハンマドの後継者(カリフ)における宗教的権威と政治的権力の分離という形で乗り越えた。* 

つまり、カリフは、ムハンマドのウンマ指導者としての地位を継承したが、ムハンマドが預言者としてもっていた宗教的権威は継承しなかった。こうして生じた宗教的権威の空白を埋めるべく期待されたのが、法学者(ウラマー)であった。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第4章:権力  加藤博(東京大学出版会、1995年)
ムハンマド―預言者と政治家』  モンゴメリー・ワット 牧野信也・久保儀明訳(みすず書房、2002年)

* ムハンマドの後継者を、イスラームの多数派であるスンナ派はカリフと呼ぶが、少数派のシーア派はイマームと呼ぶ。


 

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