ワクフとザカートの可能性(その2)

ザカートは、ムスリムが1年間に稼いだ富の一定割合を紙に返し、それを聖典『クルアーン』で示された人々に分配するしくみである。本書で紹介した中村哲によるアフガニスタンでの経験からもわかるように、ザカートの支払いは来世での救いを確実なものとするために行われる利己的行動である。そのために、敬虔なムスリムは、ザカートを払うだけでなく自発的喜捨であるサダカを熱心に支払う。また、より多くのザカートやサダカを払うために、よりお金を儲けようとビジネスに勤しむのである。

こうした利己的行動による富の追求は、結果として社会的弱者に回る富が増えることを意味する。ここでも、ワクフと同じように利己的行動の意図せぬ利他的帰結が見られるのである。

参考文献:
「資本主義の未来―イスラーム金融からの問いかけ」長岡慎介 『融解と再創造の世界秩序(相関地域研究2)』187-207頁  村上勇介・帯谷知可編(青弓社、2016年)
イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』第3章第3節:ビジョンの制度化  加藤博(詩想舎、2020年)
Shinsuke Nagaoka “The Future of Capitalism and the Islamic Economy.” In Stomu Yamash’ta, Tadashi Yagi and Stephen Hill eds. The Kyoto Manifesto for Global Economics: The Platform of Community, Humanity, and Spirituality. Springer, pp. 395-415, 2018.

□関連知識カード:
 中村哲の経験 喜捨(ザカート)の真意
 個人の欲望と共同体の福祉との融合

 


★この記事はiCardbook、『資本主義の未来と現代イスラーム経済(下) 金融資本主義からの脱却と「利他利己」の超克』を構成している「知識カード」の一枚です。



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