子殺しに適応的説明を与えたのが、サラ・フルディだ。彼女は、子殺し行動をオスの繁殖戦略であると捉えた。
新しいオスにとって、赤ん坊を殺せばメスは授乳をやめるので、すぐに発情を再開し交尾ができる。メスとしても、子供が殺されてしまえばすぐに発情を再開してそこにいるオスと交尾し次の子供を産むのが適応的、というわけだ。I):例えばハヌマンラングールでは、新しいオスが前のオスを追い出して群れを乗っ取っても、メスに赤ん坊がいる間は授乳によって排卵が抑制されるため、交尾ができない。新しいオスにとっては赤ん坊が自分の子である可能性はないので、メスが子育てを終えて発情を再開するのを待つ必要はない。メスとしても、ひとたび自分の子が殺されてしまえば、前のオスについていく必要性はない。むしろ、他のオスとの戦いに負けて群れを乗っ取られるような弱いオスについていくよりは、戦いに勝った新しいオスと次の子供を残した方が、将来の子殺しリスクを下げられるわけだ。
■参考文献
『女性は進化しなかったか』 サラ・ブラッファー・フルディ ※ 加藤泰建・松本亮三訳(思索社、一九八二年)原著一九八一年
※:米国の霊長類学者。この分野の女性フィールドワーカー先駆者のひとり。彼女の三冊目の本である『進化していない女性(邦題:女性は進化しなかったか)』の最初の章は、「生物学は女性に対して不利に働いたと、時折感じられる」と文章が始められていて、自分の研究は以前考えられていた以上の威信が女性に対して与えられるべきだとの主張が込められていて、一九八一年、「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスの特筆すべき本」の第一位に選ばれた。[編集部]
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註
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