社会公正と公定価格

市場価格と公定価格の拮抗のなかにみられるのは、イスラーム世界における政治と経済との間の緊張関係である。

公定価格のほか、イスラームにおける市場観を示すもう一つの興味深い価格がある。それは、マムルーク朝(1250~1517年)の歴史史料に現れる、市場価格とも公定価格とも異なる「神の価格」である。

マムルーク朝の行政当局の物価政策の基本は、市場の動向に任せるものであった。しかし、必需品食糧の価格が騰貴し、民衆暴動が起きる可能性があるようなときには、行政当局は、楽観的な予定調和観に立って物価を市場の動向に任せることはせず、市場に介入した。

行政当局による市場介入には、二つの方法があった。ひとつは価格を公定(タスイール)することであり、もうひとつは「神の価格」の設定であった。

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第二部第5章:統治観  加藤博(書籍工房早山、2010年)
「アドルと「神の価格」―スークのなかのマムルーク朝王権」長谷部史彦 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)

 


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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