和辻哲郎の「風土論」

これまで、ヨーロッパの思想家は、思索の対象を時間に集中させ、空間を軽視してきた。それは、死が不可避であり、時間は議論の余地なく人間の支配者であるのに対して、空間は身近な、能動的に働きかける存在だったからである。しかし、これは、ヨーロッパの自然を前提にした議論である。

これに対して、厳しい自然に受け身で対処しなければならかった日本には、京都大学の哲学者を中心に、空間に関する思索の伝統がある。その一人が、和辻哲郎であった。彼は『風土』のなかで、人間の生活の根底を規定する要因として風土性を取りあげ、風土が、そこに住む人間の物質生活はもちろんのこと、芸術やものの考え方などの文化的、精神的生活にまでその影響を刻印していることを論じた。

参考文献:
風土―人間学的考察 (岩波文庫)』  和辻哲郎(岩波書店、1979年)
世界の尺度-中世における空間の表象』  ポール・ズムトール 鎌田博夫訳(法政大学出版局、2006年)


 

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