牧場、モンス-ン、砂漠

そのうえで、風土を牧場、モンス-ン、砂漠(『風土』では、沙漠が使われる)の三つに類型化した。牧場がヨーロッパの、モンスーンがアジアの、そして沙漠がその間にあるイスラーム世界の風土にほほ相当する。

和辻が提起した人間の営みにおける風土性の議論は、風土決定論であるとの批判をこえて、今日、その重みを増している。もはやわれわれは、環境問題に典型的にみられるように、人間と自然との関係において、自然は人間が一方的に働きかける単なる客体ではなく、人間はその制約のもとでしか営みをなし得ない存在として認識せざるを得なくなっているからである。* 

参考文献:
風土―人間学的考察 (岩波文庫)』  和辻哲郎(岩波書店、1979年)
世界の尺度-中世における空間の表象』  ポール・ズムトール 鎌田博夫訳(法政大学出版局、2006年)

* 和辻の風土論に、風土決定論だとの批判を許すような抽象的で行き過ぎた表現があることは間違いない。彼は砂漠の風土について、次のように述べる。「乾燥の生活は「渇き」である。すなわち水を求むる生活である。外なる自然は死の脅威をもって人に迫るのみであり、ただ待つものに水の恵みを与えるということはない。・・・すなわち人は生くるためには他の人間の脅威とも戦わねばならぬ。ここにおいて沙漠的人間は沙漠的なる特殊の構造を持つことになる」。(和辻 1979:59)


 

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