貨幣

貨幣は市場での取引の手段であるが、市場と国家のせめぎ合いの接点でもあった。貨幣が流通する根拠としては、貨幣(コイン)の地金の市場価値に求める商品貨幣説と、貨幣を発行する公権力の信用に求める国定貨幣説の二つが唱えられてきた。

市場の主人公である商人たちは商品貨幣説を支持し、市場価値が安定し、政治領域の境を超えて流通する貴金属貨幣の発行と、その品位の維持を重視した。これに対して、政治権力は国定貨幣説を採用する傾向が強く、政治領域のなかでしか流通しないが、恣意的に流通量を操作できる卑金属貨幣の発行に傾きがちであった。* 

ウンマ(イスラーム信徒共同体)の保護者を任じたウラマー(イスラーム法学者)は、基本的には商品貨幣説に立ちながらも、ウンマの社会福祉のため、貨幣を政治権力による統治術の一つと認めていた。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第2章:貨幣  加藤博(東京大学出版会、1995年)
「中世エジプトの貨幣政策」加藤博 『一橋論叢』76巻 6号、1976年

* 第二巻における、15世紀末のエジプトにおける経済危機の分析。

□参照知識カード:
イスラーム経済を理解するキーワードとは
マムルーク朝末期の経済危機
ウラマー
ウンマ


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.3 基本概念・基礎用語編』を構成している「知識カード」の一枚です。


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