共同体倫理と神の価格

公定価格の設定は、実質的な政治権力の市場への介入であった。これに対して、「神の価格」は公定(タスイール)を避け、人びとの慈善・宗教意識に直接働きかける、社会福祉的な性格を帯びた「弱者救済価格」ともいうべきものであった。

そのため、後者の対象は、特定の必需品食糧に限られていた。つまり、「公正価格」と「神の価格」はともにアドル(公正)を重視しているが、物価を統制するのに、「公正価格」は公権力に、「神の価格」は共同体倫理に訴えてなそうとしたのである。

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第二部第5章:統治観  加藤博(書籍工房早山、2010年)
「アドルと「神の価格」―スークのなかのマムルーク朝王権」長谷部史彦 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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