JSミルの逡巡

古典派経済学を集大成させたミルは『経済学原理』において、「世界中のすべての人間のいっさいの労働をもってしても、物質の一微分子をも生産しうるものではない」、「労働は物を創造するものではなく、効用を創造するものである(※I):引用 『経済学原理』(岩波文庫、一九五九年))」とセーの議論を肯定した。

そして、「生産的労働とは、富を生産する労働という意味である」として、「およそ永続的効用人間に体現されると生物又は無生物に体現されるとを問わないを創造することに使用される労働はすべて生産的労働と見なすべきである(※II):引用 『経済学原理』(岩波文庫、一九五九年))」という考え方に至る。

しかし、ここで彼は、「もし私が新たに術語をつくるとすれば、私は区別の基準を生産物の物質性よりも永続性に置くだろうが、しかしまったく慣用の言葉となってしまった言葉を使用する場合には、及ぶ限りその慣用を犯さないようにその言葉を使用するのが好ましいように思われる(※III):引用 『経済学原理』(岩波文庫、一九五九年))」と逡巡しゅんじゅんしてしまう。

■参考文献『経済学原理』  ジョン・スチュアート・ミル 原著一八四八年※IV):ミルの『経済学原理』は、マーシャルの『経済学原理』の登場(一八九〇年)まで古典派経済学の代表的な教科書として知られていた。


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I. :引用 『経済学原理』(岩波文庫、一九五九年))」とセーの議論を肯定した。
II, III. :引用 『経済学原理』(岩波文庫、一九五九年)
IV. :ミルの『経済学原理』は、マーシャルの『経済学原理』の登場(一八九〇年)まで古典派経済学の代表的な教科書として知られていた。