小さな組織・ネットワークによる信用・短期的投資

興味深いことに、現在、イスラーム事業体の特徴として評価されている性格は、逆説的であるが、先に近代におけるイスラーム経済の後退の理由として指摘した資本蓄積システムの欠如(「法人」概念の希薄さと短期的な契約観)とかかわっている。

現在の金融中心の経済体制において、刻々変化する経済状況についていくためには、大きな企業組織よりは個人的な信用を基盤とし小回りの利く事業体が好ましいと考えられるようになった。

また、資金調達についても、著名な銀行に頼らずとも、パソコンでのネットワーキングを通して巨大な資金を調達することが可能になり、同時に、投資リスクを避けるために、短期的な契約に基づくプロジェクト・ファイナンスが好まれるようになった。

イスラーム事業体は、近代資本主義には適応しないとされていた。しかし、それが、生産を基本とした産業資本主義の時代が終わり、差異が利益をもたらす情報化社会の到来によって、時代に適応的となったのである。

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第一部第7章:イスラム金融と金融資本主義  加藤博(書籍工房早山、2010年)
会社はこれからどうなるのか(平凡社ライブラリ)』  岩井克人(平凡社、2003年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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