イスラームは神政一致ではない

イスラーム世界の政治について、それが神政一致であったとよく言われる。確かに、イスラームは「聖」と「俗」の二元論を否定し、「聖」と「俗」の一致を前提にした厳格な一元論的世界観に立つ(第一巻『イスラーム経済の基本構造(理論編)』を参照)。

しかし、だからといって、神政一致という言葉から想定されるような、宗教的権威と世俗的権力が融合していたわけではない。

そもそも、イスラーム世界においては、キリスト教世界におけるヴァチカンのような中央集権的宗教権威は存在しない。

ムハンマドは神の啓示を受け取ることができる最後の預言者であり、彼の死後、イスラーム世界には、宗教的中心はもちろんのこと、神と信徒を仲介するキリスト教の教会のような宗教組織も存在しなかった。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第4章:権力  加藤博(東京大学出版会、1995年)
「イスラーム世界における政-教関係の二つの次元」池内恵 『民族主義とイスラーム―宗教とナショナリズムの相克と調和(研究双書)』  酒井啓子編(アジア経済研究所、2001年)

□参照知識カード:
イスラームは聖俗一元論
聖俗一元論のイスラーム経済


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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