差異とポスト資本主義

この点において、その利潤創出原理において、従来、前近代的な資本主義形態とされてきたヴェニスの商人の商業資本主義と変わりはない。なぜならば、商業資本主義の利潤創出は、空間的に離れた二つの地点間に存在する価格格差、つまり人間の労働という実体とは無関係な、二つの地点の物価体系(価値システム)間の抽象的な「差異」に基づかせているからである。

こうして、岩井は以上の議論を踏まえ、現代の情報化社会における資本主義に対して、逆説的な診断を下すことになる。つまり、われわれはここに来て、前近代を克服したどころか、再び前近代のヴェニスの商人の時代に戻ってしまったというのである。というのも、いまや情報そのものの商品化を特徴とするポスト産業資本主義の時代であるが、そこでの情報の商品価値とは、まさに抽象的な「差異」そのものが生み出す価値にほかならないからである。

参考文献:
ヴェニスの商人の資本論 (ちくま学芸文庫)』  岩井克人(筑摩書房、1985年)


 

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