ムハンマドが死んだとき、彼は最後の預言者であったところから、その時点において、神から啓示を受けることのできる人間はいなくなった。ムハンマドが生きている限り、ことが起こるごとに、ムハンマドにお伺いを立てればよい。彼が神の啓示を受け、指導してくれるからである。
しかし、彼が死んだいま、それに頼ることはできない。神の啓示として残されたコーランだけでは、社会で起きる複雑でさまざまなことに対処できない。そこで、急遽、収集されたのが、コーランに次いで社会規範となるスンナ、つまり預言者ムハンマドの言行の記録(ハディース)であり、有力な法学者によって、いくつものハディース集が編まれた。*
参考文献:
『イスラーム文化―その根柢にあるもの(岩波文庫)』 井筒俊彦(岩波書店、1991年)
『新装版 イスラム:思想と歴史』 中村廣治郎(東京大学出版会、2012年)
* イスラーム世界から集められたハディースの数は膨大なものであった。そこには、多くの偽のハディースが混じっていた。というより、偽のハディースが大半であったであろう。そこから、真のハディースと偽のハディースとを選別する作業が始まった。それが体系化され、イスラーム学の一つとしてハディース学が形成された。
★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。
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