ウラマー(法学者)は、神の啓示を受け得ず、それゆえにムハンマドにかわる宗教的権威をもち得ない点においてカリフ(指導者)と同じであったが、そのイスラームに関する知識に基づいて、立法こそできないものの、シャリーア(聖法)の解釈をおこなった。
カリフはこのウラマーの解釈に依拠しつつ、シャリーアの実施に責任をもった。
理念的には、カリフといえども、シャリーアに従わねばならなかった。その意味において、ローマ帝国がローマ法に、近代国民国家が近代法によって統治されたと同じように、シャリーアによって統治されたイスラーム政治体制も、法による統治と言うことができる。
違いは法治主義か否かにあるのではなく、そこで適用される法の性格の違いにあった。
参考文献:
『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第4章:権力 加藤博(東京大学出版会、1995年)
『増補新版 イスラームの構造 タウヒード・シャリーア・ウンマ』 黒田寿郎(書肆心水、2016年)
『イスラーム文化―その根柢にあるもの (岩波文庫)』 井筒俊彦(岩波書店、1991年)
★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。
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