社会関係の基本は契約

イスラーム世界で商人は、高度な社会的分業を背景に、実にさまざまな資本と労働の結びつきを可能にする契約に基づいて経済活動を行っていた。

その代表的な契約形態を挙げれば、パートナー間において利潤とリスクが配分される経営形態であるパートナーシップ(シャリカ、ムシャーラカ)契約、投資家の提供する資本と代理人の提供する労働とから成立する経営形態であるコンメンダ(ムダーラバ、キラード)契約、そしてさまざまな形態の雇用(イジャーラ)契約である。* 

参考文献:
「イスラーム市場社会の歴史的構造」加藤博 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)
「当事者の世界と法廷の世界―イスラーム法における契約」三浦徹 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)
イスラーム商業史の研究―坿東西交渉史 (東洋史研究叢刊)』  佐藤圭四郎(同朋舎、1981年)
Udovitch,A.L Partnership and Profit in Medieval Islam, University Press, Princeton,1970

* シャリカあるいはムシャーラカは、当事者が資本や労働を提供し、利益の分配は出資の割合に応じてなされる、協業のもとに損益を分配する契約。その他にイスラーム経済で好まれた契約として、イタリア語でコンメンダ、アラビア語でムダーラバ、キラードと呼ばれる、資本の提供者がすべての損失を負担する一方、約定された割合に従って、労働の提供者と利益を分配する契約がある。この契約は、隊商における慣行に起源があるといわれる。より詳しくは、大塚和夫ほか編『イスラーム辞典』(岩波書店、 2002年)における当該ならびに関連項目の解説を参照のこと。