アダム・スミスの経済論との差異

違いがあるとすれば、アダム・スミスは資本の蓄積論を詳細に展開しているが、イブン・ハルドゥーンにはそれが弱いということであろうか。これは、同じく市場経済論を展開していても、イブン・ハルドゥーンとアダム・スミスが観察していた市場経済が性格をことにしていたからであった。*

近代資本主義は生産の経済であり、その経営単位である企業は設備投資を必要としたため、膨大な資本の調達を必要とした。これに対してイスラーム経済は基本的に流通と消費の経済であり、必要とされるのはもっぱら運転資本であった。そのため、交換のメカニズムは高度に発展したものの、資本の蓄積システムは発達しなかった、というよりも、発達させる必要がなかった。

参考文献:
イスラム世界の経済史』 補論:イブン・ハルドゥーンの経済論  加藤博(NTT出版、2005年)
アダム・スミス『国富論』を読む(岩波セミナーブックス)』  丸山徹(岩波書店、2011年)

* これは、イブン・ハルドゥーンとアダム・スミスが観察した市場経済の差異、ひいては市場経済と資本主義経済の異同、ヒックスのいう制度化された市場の議論とつながる問題である。(J・R・ヒックス『経済史の理論』(新保博・渡辺文夫訳) 講談社学術文庫、1995)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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