世界経済史の叙述から消えたイスラーム経済

教科書的な世界経済史の叙述のなかで、イスラーム経済はほとんど言及されない。されたとしても、「序文」のなかで簡単に触れられるだけである。

こうした状況を生み出した理由の一つは、近世から近代にかけてヨーロッパで形成された、生産第一主義の経済観である。世界経済史とは、近代資本主義の歴史なのである。

それは、貿易統計の取り方に典型的にみられる。重視され、推計が試みられるのは生産地と最終消費地での統計であり、両者を結ぶ過程は、ただ単なる通過点として軽視される。注目される場合でも、それは港市のように点としてであり、広がりを持つ面としてではない。

そこに、所得の源泉を生産にみて、流通、商業からの収益を低く評価する傾向をみることは容易である。こうして、世界経済史の叙述において、イスラーム世界は、文字通り欠落することになった。

参考文献:
「世界経済史におけるイスラ-ムの位置」加藤博 『社会経済史学の課題と展望』  社会経済史学会編(有斐閣、2002年)
資本の世界史』  ウルリケ・ヘルマン 猪股和夫訳(太田出版、2015年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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