[はじめに]『脳と情報』

◎脳の原理を「神経回路」の視点から解説した、あまり他に例のない脳神経学の本。「神経回路」の視点から考えることで、たとえば、人工知能との違いも見えてくる。

これは、佐々木 拓哉(東京大学)氏の、『脳と情報——神経回路と記憶のメカニズム——』の「はじめに」を公開したブログ記事です。


はじめに

脳は、私たちの記憶、情動、意思決定など、すべての精神機能を制御する臓器です。これまで、脳機能を科学的に検証するために多くの研究が行われてきました。また、そのような研究成果をまとめて、著名な先生方がこれまでに多くの書籍を執筆されています。現在では専門的な内容を扱う書籍から、平易な一般向けの書籍まで幅広く存在しています。

そのような中で本書の執筆依頼を受けたとき、何を書けばよいのか悩み、とりあえず、学生時代に勉強した神経科学の教科書や書籍を読み直すことにしました。ふつう、神経科学の教科書では、脳機能を各論(視覚、運動、情動など)に分けて解説しています。理系の学問は、定義と分類をもとに議論を進めるのが常識ですので、これは当然であり、初学者が一つの学問体系を理解するには必須の過程です。しかし一方で、一つの脳機能だけに深入りし過ぎると、その機能の脳全体の中での立ち位置や、他の機能との連合性や類似点が見えにくくなることもあります。

脳機能は非常に多岐に亘りますが、どのような機能にも共通しているのは、神経細胞の集団、すなわち「神経回路」による入出力情報処理から生成されるという性質です。視覚の情報処理も、過去の記憶も、突発的なひらめきも、同じ原理で作動している神経回路が根底にあります。こうした基本原理に立ち戻ると、脳は意外とシンプルなルールで働いており、しかし一方で、無限に近い情報処理能力を備えていることも理解できます。脳の各機能をより深く学ぶ際にも役に立つ視点になることと思います。

こうした動機から、本書では、神経科学の王道に沿った概説は他の専門書に譲り、神経回路という視点を軸にして、多様な脳機能を横断的に理解するという試みをしました。このような細部を省いた解説は、不足の指摘も受けやすいですが、微にあまり深入りせずに全体の共通点を俯瞰できるという利点もあります。神経回路の本質を見直すことで、私たちの脳がどのように記憶を保持するのか、なぜ創造性を作れるのか、機械とどのように違うのか、といった疑問も考察しやすくなるはずです。

神経回路の基本動作に関する知識がないと、脳機能の本質を理解するのは困難です。本書の前半部では、まず必要最低限の基礎を記述しています。その後、神経回路の情報の連合や最先端の研究成果から、様々な脳情報処理の考察を試みます。本書は、学術的な記述スタイルを取り、一般向けの記述や過剰な推測を避けています。しかし、脳に関する記述であることには違いありませんので、必要に応じて、神経回路の性質と日常の脳の働きを比較してみると、親近感を持てるはずです。読者の皆様それぞれが、本書の情報をどのように脳の神経回路に入力し、意見や解釈などの出力を生成されるか楽しみです。

 

目次構成:

◎全体の目次構成:
はじめに
推薦文(池谷裕二)
第一章 脳の情報処理を知るには神経回路を知る必要がある
第二章 神経回路の基本的な構造と機能
第三章 神経回路を調べるための実験技術
第四章 神経回路における感覚情報の流れ
第五章 神経回路における多様な入出力パターン
第六章 記憶と学習の神経回路
第七章 脳の自発活動と神経回路
第八章 今後の神経回路研究
おわりに

□知識カードの例:(第七章 脳の自発活動と神経回路)~アイカードブック(iCardbook)は知識カードを編成した電子書籍です。

84 神経回路とコンピュータの比較
85 神経回路の入出力と創造性
86 トップダウン情報処理の存在
87 神経回路の入出力を不安定にする神経メカニズム
88 神経細胞の自発活動
89 自発活動のメカニズム
90 自発活動のメカニズム その二
91 神経回路の自発活動には秩序が存在する
92 秩序のある自発活動と神経回路の入出力
93 神経回路の自発活動の状態
94 自発活動と「睡眠」
95 神経細胞の自発活動と動物の「進化」
96 脳とコンピュータの共存

『脳と情報——神経回路と記憶のメカニズム——』はアイカードブックの一冊です。

 

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アイカードブック創刊の狙い | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/5063

本のネットワーク化 – iCardbook|知の旅人に http://society-zero.com/icard/network

日本人の情報行動の変化と<本>の未来 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/7396/#4

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