ワクフ

イスラームの寄進(制度)。名称は、「停止」を意味するアラビア語のワクフに由来する。ある物件の所有者がその所有権の行使を停止(放棄)し、それからの収益を宗教的、慈善的な目的のために供出することを意味する。

しかし、ほかの宗教の寄進と異るのは、物件の私有権が停止されても、物件の管理はワクフ設定者の権限のもとに残り、収益の供出先もワクフ設定者によって決められることである。これらの取り決めはすべて、契約文書(ワクフィーヤ)において記載され、その効力はイスラーム法によって担保された。

モスク、商館、病院、学校、孤児院などの公共施設の維持・管理を目的とした「慈善ワクフ」と、個人が家族のために信託して収益権を保持する「家族ワクフ」があったが、その法的効力に差はなかった。

参考文献:
イスラム世界の経済史』 第二部5章:ワクフ(寄進)制度にみるイスラム市場社会  加藤博(NTT出版、2005年)
『文明としてのイスラム』 第5章:法  加藤博加藤博(東京大学出版会、1995年)
増補新版 イスラームの構造 タウヒード・シャリーア・ウンマ』  黒田寿郎(書肆心水、2016年)

■関連知識カード/章説明他:
イスラームにおける互酬的社会観
イスラーム世界の経済社会に深く組み込まれている賃貸


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.3 基本概念・基礎用語編』を構成している「知識カード」の一枚です。


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