イブン・ハルドゥーンの文明論

『歴史序説』は、歴史を文明の交代と変遷として叙述した。そこには神学的な議論はほとんどなく、人間の営みの結果として歴史を分析したため、ヨーロッパで、イブン・ハルドゥーンは世界で最初の社会科学者として評価された。

イブン・ハルドゥーンの経済論は、彼の文明観を抜きにしては語れない。イブン・ハルドゥーンにとって、文明は一義的に都市に結びつけられる概念ではなく、人類にとって不可欠な「社会的結合」そのものを意味するきわめて包括的な概念である。そのため、都市のみならず、農村、遊牧社会など人間が社会生活を営む空間である限り、それらはそれぞれに固有な文明をもつことになる。

このように、イブン・ハルドゥ-ンにとって、文明は、未開から文明へと単線的に発展する歴史の一段階ではないし、人びとは等質的な空間に住んでいるわけではない以上、同時に複数の文明が併存する。イブン・ハルドゥーンはこうした文明の定義に立って、人類の歴史を「田舎の文明」と「都会の文明」との循環的交代でもって説明する。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第7章:文明  加藤博(東京大学出版会、1995年)
イブン=ハルドゥーン(講談社学術文庫)』  森本公誠(講談社、1980年)
歴史序説 3(岩波文庫)』  イブン ハルドゥーン 森本公誠訳(岩波書店、1978~87年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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