イスラーム経済形成の背景

イスラーム経済は、商人のネットワークを外部経済として繁栄した。その繁栄は、イスラーム世界の生態的ならびに地理的条件と、商業という経済活動の特徴とが結びつくことによって可能になった。

ここで、商業の特徴とは、工業、農業などものを作る経済とは異なり、多額の固定資本を必要とせず、その活動がもっぱら、ものとサービスの売買にかかわる運転資本の規模に基づくことである。商業にとって必要な固定資本は道路と商館などの施設であるが、それらは「公共施設」としての社会資本であった。

つまり、イスラーム商人たちがヨーロッパ商人に「負け」、内陸ルートの主導権を奪われたのは、経済の効率性ではなく、経済の性格ゆえであった。イスラーム商人のネットワーク依存性が、ヨーロッパ商人が保持した法人制度、軍事制度に、その弱点を突かれた。

参考文献:
「世界経済史におけるイスラ-ムの位置」加藤博 『社会経済史学の課題と展望』  社会経済史学会編(有斐閣、2002年)
イスラム世界はなぜ没落したか?―西洋近代と中東』  バーナード・ルイス 臼杵陽監訳(日本評論社、2003年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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