その4.原則的には、ワクフ物件は、所有権が凍結されることによって、設定後には分割、譲渡、売却など一切の処分を禁止されていた。
つまり、設定後のワクフ物件の所有権については、それは神に帰属するとか、ウンマ(イスラーム信徒共同体)に帰属するとか、法学派によって異なるものの、設定後は、設定者であれ、さらには国家であれ、ワクフ物件を自由に処分することはできなかった。
そして、ワクフ物件の所有権は凍結された以上、ワクフ文書の規定に基づく、その運用はすべてそこでの用益をめぐって展開された。
参考文献:
『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第6章:宗教・第3節:イスラム社会に普及するワクフ 加藤博(東京大学出版会、1995年)
『イスラム世界の経済史』 第二部第5章:ワクフ(寄進)制度にみるイスラム市場社会 加藤博(NTT出版、2005年)
★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。
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