イスラーム世界の多様性をもたらす弁証手続き

したがって、イスラーム経済を理解する際に肝要なのは、ビジョンとしてのイスラーム経済とそれに基づいて展開している現実のイスラーム経済とを混同しないことである。現実のイスラーム経済は、ビジョンに基づく「似た性格」を持ちながらも、それぞれの時代や地域の「世俗的」な環境に応じて多様に展開してきた。

歴史的なイスラーム世界は三つの大陸にまたがる広域な「世界=経済」*であったところから、そこでのイスラーム経済の展開における多様性は驚くほどである。そして、この多様性を可能にしたのは、コーランを核としたいくつかの法源から社会規範を導き出す、イスラームに特有な弁証手続きであり、この手続きを通して、ビジョンに沿った、具体的な経済プログラムが導き出された。

参考文献:
イスラム経済論―イスラムの経済倫理』 第一部第8章:イスラム金融を支えるもの  加藤博(書籍工房早山、2010年)
『歴史入門(中公文庫)』  フェルナン・ブローデル 金塚貞文訳(中央公論新社、2009年)

* フェルナン・ブローデルの用語。ひとつの全体としてみた世界の経済である世界経済と対比された、「経済的な全体(まとまり)を構成しているかぎりの、地球のある一部分だけの経済」を意味する(『歴史入門 (中公文庫)』 103頁  フェルナン・ブローデル 金塚貞文訳(中央公論新社、2009年))。


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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